Don't Look Back
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9話

第1章「憂鬱な昼下がり」

松本祐太(男子10番)の死を告げる放送が会場を渡り歩いた数分後、小畑裕司(男子3番)は入口ゲートから試合会場に入っていた。
(真達は何処にいるんだ?)
放送が鳴っていないから殺されてはいないとは思うが、心配でたまらない。しかし焦りを無理やり抑えこみつつ、周りを注意しながら進む。右手には支給品のスタングレネードが握られていた。
「裕司っ!」
近くの木の陰、ちょうど茂みになっている辺りから呼びかけられた。声がした方に向かってゆっくりと振り向く。
「おお。ちゃんと待っててくれたのか」
声のした茂みに近づいて話しかける。さっきとは別の声で返事が返ってきた。
「まぁ長い縁だし、裕司の事は信頼してるんだからね?」
女子の声と共に茂みに隠れていた人間が顔を出す。最初に打ち合わせしていた通り大村真(男子2番)と、荒井里佳(女子2番)、そして裕司にとって予定外のメンバー、愛沢七海(女子1番)の3人だった。
「……あれ?愛沢さんだけなのか?」
バス内で真と2人で決めたことは「殺る気のない人間をできるだけ集めること」だった。もう少し他の人間とも合流できると思ったのだが。
「私は里佳なら信頼できると思って待ってたの。あ、別に小畑君と大村君が信用できないって訳じゃなくて」
愛沢は微笑んで言った。親友と合流できた事が嬉しいのだろう。だが彼女の顔に陰りができ、言いにくそうにして裕司に告げる。
「他の人は、私が来たときには誰もいなかったよ。多分、松本君が死んじゃったから……皆、他の人を信用できなくなってるのかな……」

座った途端、里佳が全員に向かって訊いた。
「……ねぇ、やっぱり自分から殺し合う人っていると思う?」
「悪いけど、俺はクラスメイト全員を信頼できるとは思ってない。死にたくなければ殺すしかない――それがプログラムのルールだ。皆、死にたくないんだ。これに自ら乗る奴がいてもおかしくはないと思う。嫌な話だけど」
場の空気が悪くなったのが誰の目にも明らかだった。嫌な気分を少しでも紛らわせるために、裕司は右手に持つパイナップル型の物体を見せた。
「皆、何を貰ったんだ? 俺はスタングレネードが5つ。ピンを抜いて投げると音と光で相手を気絶させる物らしい」
残りの3人はもう既にお互いの支給品が何か知っているらしく、それぞれ取り出して見せる。愛沢が防犯用のカラーボールで、真が頑丈なプロテクターセット。里佳はいかにも強力そうな銃――コルトAR6450というカービン銃を渡されていた。
「へぇ……。32発装填できて連射できるのか。どう考えても強いな」
「裕司、それ使ってよ。私には使いこなせそうにないし……」
里佳はカービン銃を裕司に渡してきた。
「いいのか?」
「もちろん。そこまで信頼してなきゃ一緒に脱出しようだなんて無茶な事に付き合わないよ!」
裕司は黙って受け取り、代わりに自分のデイパックからスタングレネードを3つ取り出して渡す。

真が切り出した。
「ところで脱出する作戦、なにか思いついた?」
「ある事はある。出てきた建物に多分パソコンがある筈だ。プログラムを運営するためのやつが。そのパソコンにハッキングするんだ。そうすれば、この首輪も無効にできる。けど、俺達に利用できるパソコンがあるかも分からないし、ネットに繋げられるかどうかも分からない。もしバレたら即、首輪がドカンだ。
それに繋げられたとしても俺には無理だ。初心者相手ならまだしも、プロ相手に上手くいくはずがない。ただ直樹や後藤なら、上手くやってのけるかもしれない」
突然、冬月直樹(男子9番)後藤大輝(男子7番)の名前が出て、3人とも意外そうな表情をした。
「直樹って、あの森垣を殴り倒しちゃった冬月君のことだよね? それに後藤君もパソコンできるの?」
「ああ。直樹とはインターネットで前から知り合いだったんだ。アイツは凄い色々知ってるし、この手のヤバいこともかなりできると思う。後藤の方も前からネット上での知り合いだったらしい。知っての通り天才だからな」

結論が出ないまましばらく間が空いてから、里佳が声をかけてきた。
「ねぇ裕司、今は脱出を手伝ってくれる人集めようよ。もうすぐ早紀ちゃんが来るはずだし」
(そうだった。もうすぐ一條早紀(女子3番)が来るんだ)
しばらくして。最初の一條早紀(女子3番)は、比較的仲の良い愛沢が声をかけてみたものの、
「えっと…………ごめんなさい。後藤君を探さなきゃいけないの」
と言ってすぐに走り去ってしまった。何故、あの後藤を探しているのかは、4人にも分からなかったが。大きな銃を持っていたから、多分大丈夫だ――そう結論づけて、裕司は次に来る川上寛志(男子4番)を待った。

(寛志は明るい奴だし、プログラムに進んで参加するなんてありえない)
そう思って、安心していた。しばらくして既にほとんどのクラスメイトが潜った門を寛志もまた、潜ってきた。だが、様子がおかしい。かなりビクついた様子で辺りを注意深く見回しながら歩いてくる。手には拳銃が握られていた。
「川上っ!」
裕司は念のため遠くから寛志に向かって叫ぶ。驚いた彼は裕司達に向かって銃を乱射した。4人共、悲鳴を上げて草むらに伏せる。しかしそもそも殺す気が無かったのか、無茶苦茶に乱射しつつ一気に小畑達の横を走りぬけて行ってしまった。
「はぁっ。怖かったぁ……」
裕司は大丈夫だと思っていた川上に銃で撃たれたことにショックを受けた。しかし殺しには来なかったことから、落ち着いた時ならばなんとか話し合うことも出来るだろうと無理やり思いこんだ。

そんなわけで、今は伊吹彩花(女子4番)を待っている。
「来たっ!」
屈んで、茂みの中から道路の方を見ていた真が叫ぶ。肩下までのロングヘアーの子が歩いてきていた。
「伊吹さんっ!」
今度は真が茂みの中から叫んだ。彼女はビクっとしたと思うと、手に持っていたナイフを声のした方に向けた。
「……もしかして、大村君?」
「小畑と愛沢と荒井もいるぜ?」
伊吹はこちらのメンバーにかなり安心したようだった。素直にナイフを持つ手を下す。
「別にこっちは撃つつもりはないから、それ下ろしてくれないか?」
愛沢が声をかけた。
「伊吹さん、私達と一緒にいない?」
「別にいいですけど……愛沢さん達はどうするつもりなんですか?」
「どうにかして、脱出するつもりなんだ」
「私も協力させてくれませんか」
裕司はその瞳の中に現れた決意を読み取って、少し笑った。
「よし。もっと人数を集めよう。何か良い案が思いつくかもしれない――」
しかし、その発言はたったの数十秒後に覆されることになった。

不自然な音がする。早いペースでコンクリートを叩く音。気づいた真が叫んだ。
「伊吹さん、逃げろ!」
誰かが入口ゲートから凄い勢いで走ってくる。それを見た瞬間、裕司は唖然とした。走ってきたのは小柄な北康太郎(男子5番)だった。不登校で有名な。しかし裕司が唖然とした理由はそこではない――1メートルほどの超巨大ハサミを持っていた。その刃は閉じられていたが、突いても人間の身体を突き刺せそうなくらい鋭い。彼女のいる所まで距離は既に数メートルまで縮まっている。その表情は思わずぞっとするほど、恐怖に歪んでいた。
「止まれぇっ!」
カービン銃を彼に向けつつ、叫んだ。しかし北は一向に応じず、それどころかハサミの先端を裕司達に向けて突き刺そうとしてくる。裕司はカービンの引き金を引こうとしたが、何故か引けなかった。このままでは彩花に突き刺さるのは自明の理だった。
(くそっ!)
裕司はカービン銃を振り回して、北のハサミを吹き飛ばそうとした。ハサミはカービン銃に叩きつけられ、先端が地面を擦った。だが北は臆することなくハサミを捨てて突進した。真正面から全速力ダッシュのタックルを受ける形になり、裕司は地面に吹き飛ばされる。
「伊吹さん早く立って!」
愛沢の声が聞こえ、彩花が慌てて立ち上がり離れようとしているのが見えた。北は馬乗りの体勢になってハサミを背中に突き刺そうとしている。
(殺される――)
裕司は観念して、死に伴う痛みに耐えようとキュッと目を閉じた。

その時、激しい爆破音が響いた。耳がおかしくなりそうなくらいの爆音だった。視界が真っ白になる。一瞬、意識がブラックアウトする。
しかし数秒後、複数人の手で北の下から引っぱり出され、コンクリートの道路の上で引きずられると、すぐに意識が戻る。里佳達3人だった。
「もう引きずらなくていいって!」
離された裕司は地面に倒れこんだ。なんとか起き上がって北のいた所を見る。北は大の字になって倒れていた。里佳がその光景を見て、怖気づいた口調で言う。
「早くどっか行こうよ? アイツが起きたらまたヤバい事になりそうだし」
誰も異議を唱える者はいなかった。プログラムに乗った者を初めて見た瞬間だった。
(川上にせよ北にせよ、"プログラム"はクラスメイトの裏側を露にするらしい。見たことも見たくもない面を次々と見せられ、裕司は途方もなく恐怖していた。)

【残り23人】