Don't Look Back
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8話

第1章「憂鬱な昼下がり」

再び時間は巻き戻る。かなり早い出発だった冬月直樹(男子9番)は支給品を確認すると、すぐさま行動を開始した。脱出あるのみだ。
とりあえず必要そうな物を調達するためにショッピングセンターに足を向ける。両手で握ったスミス&ウエッスン社のM686リボルバーが吹き飛ばしたのだ。父から学んだことに銃の取り扱いも入っており、銃は安心と、結構な確立で人を殺す力を彼に与えている。
彼は銀色に光るリボルバーをしっかり握って正面入口の自動ドアを通り、ショッピングセンターに入る。中は電気がついていてとても明るく、エスカレーターも無人ながら動いているようだ。

(地下1階にスーパー、2階に薬局か。3階には家電屋とおもちゃ屋、5階にはアウトドア用品店――他にも色々な店があるな)
一通りセンター内の地図を覚えて、彼は下に向かうエスカレーターに乗りこんだ。地下1階には大きなスーパーがフロア全体に広がっている。食べ物と水は最初のうちに取っておこう。
警戒しながらもスーパーの自動ドアに近づいて開けて、数歩足を踏み入れた。思わず聞き逃してしまいそうなくらい小さい音がスーパーの奥で鳴る。横を何かが通り過ぎるのを感じた。
(銃弾!)
身体が瞬間的に強張り、意思とは関係なく動いていた。普通なら逃げるなり後退するところだろうが、直樹は逆にスーパーの中へ、入口に近いレジカウンターの方へと走る。同時に奥の方で小さい音が何度か鳴って銃弾が次々と突き刺さった。レジの陰に飛び込みながら、威嚇で何発かあさっての方向へ撃った。
相手からの銃声が止まったのを確認して叫んだ。
「撃つな!殺る気じゃない!」
「冬月だな?」
予想外にも声をかけてきたので少し拍子抜けする。けれども声に聞き覚えがあった。というか今朝話したばかりだった。
「後藤か?」
直樹は一番の不安要素である後藤大輝(男子7番)と早くも会ったことに、戸惑いを覚えつつ呟いた。

「邪魔はしない。もしよかったら集める間に情報交換をしようと思うが」
「別に構わないよ」
そう答えた。まだ後藤のことがよく分からないが、今は信頼してもいい。そんな気がした。

作業は思ったより重苦しくない空気の中、行われた。後藤は邪魔するどころか、冬月が要りそうな物を次々と持ってきてくれたのだ。
「しかし、なんでまたそんなに荷物が多いんだ? 流石に動きにくいだろ?」
「俺は他の店も周ってきてここが最後だからな。この荷物は何処かに隠すし、機動力的には問題ない」
「ここに来るまでに誰か会った?」
「いや。俺は最初に出発して一直線に来たが、誰かに会ったのは冬月が始めてだ」
スーパー全体のマイクの電源が入る音がした。緊張が走り、2人は思わずマイクの方を見上げていた。
「こんにちは。担当官の羽原です」
「まだ全員出発していないですが、早くも死者が出ました。男子10番・松本祐太君です」
やはりクラスメイトの死亡を告げる放送だった。直樹は横目で後藤の様子を伺った。
「死んだか」
ぼそりと後藤は呟いた。相変わらず無表情だった。

後藤はすっと時計を見て、名簿を取り出して数を数える。
「この時間ならせいぜい大村真(男子2番)荒井里佳(女子2番)までしか出発していないな」
「誰が殺したか予想はつく? こっちは転校してきたばかりだから、よく分からないんだ」
返答は実にスムーズで機械的で論理的だった。
「……荒井までがありうるとして、特に仲が悪いのは俺や松本、森垣のグループと吉崎の間だな。そして死んだのは松本となると、単純に考えれば吉崎が俺達のグループへ復讐を始めたということが考えられる」
「なるほど。自然な流れだ」
「しかし松本は出発順から考えてほぼ確実に森垣と合流しようとするだろう。それで上手く合流して、吉崎と1対2で撃ちあって松本だけ死んだというのも無くはない。が、合流していた場合はむしろ森垣の性格からして松本を裏切って殺したという方がありえそうに思う」
「確か同じグループだったっけ。ずいぶんと身内に冷たいんだな」
「森垣はあまり意外性のある人間とは言えない。どういう人物か掴めればそれで全部だ。冬月は、森垣がプログラムにおいてグループ内のメンバーを最後まで信頼するような人間だと思うか?」
「……いいや」
「そういうことだ」

後藤は拳銃をデイパックに放り込むと、立ち上がった。どうも松本の死んだ場所を探しに行くようだった。
「冬月は脱出するつもりか?」
唐突に尋ねられる。全てを見透かしたような視線を受けて、直樹は少し鼓動が早くなったのを感じた。
「もちろん。でも対策を強化しているだろうから難しい」
「『Jack』なら、もう何か案が出来たかと思っていたが」
「そんなに買いかぶっても何もでないよ。俺はただの中学生だしね、『510(ゴトー)』さん」
手を軽く横に振りながら、嫌がらせの意味を含めてハンドルネームで返してやる。後藤の方はというと意外な所に意外な反応を返してきた。
「ただの中学生ならここまで長く話してないな。その落ち着きぶりに、行動力と身体能力。『普通』とは言い難い」
少し心の傷を抉られるような感覚を覚えた。
「射撃の練習したことあるんだろう? わざと外すなんて芸当、専門訓練でも受けて無い限りは無理なような気がするけど?」
お返しに痛いと思われる所を突いてやると、後藤はその暗い空気の中、苦笑いをした。直樹は初めて後藤に感情というものを見出したような気がした。
「そういうことなら俺も訊ねないことにしよう。俺も冬月も何かあるらしいな」
そう言うと直樹の方を見ずに歩き始め、スーパーの入り口へと向かっていった。その背中に向かって直樹は最後に一つだけ訊いてみることにした。
「後藤は、やる気じゃないんだな?」
振り返りすらしなかった。ただただ直樹に聞こえるように呟いたのみだ。
「分からない」
白い蛍光灯の光が彼の後ろ姿を照らす。前を行く影はどことなく揺らいでいた。

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