Don't Look Back
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6話

第1章「憂鬱な昼下がり」

「女子9番、三谷香奈子!」
自分の名前を呼ばれ、三谷香奈子(女子9番)は立ちあがって入口へと向かった。兵士からデイパックを投げ渡されると、睨むというほどでもないが羽原一郎と名乗る担当官へ向いた。羽原も彼女の方を見ていたので視線が交錯したが、決して視線を逸らさず言い放った。
「わたし、プログラムなんか乗りませんから」
怒りに震えた大声でも恐怖に竦んだ小声でもなく、どこまでも平静。冷徹ですらなく、ただ事実を告げただけといった調子だ。それを聞いた担当官は動じる様子もなくまったく無反応だった。
むしろクラスメイトの方が、銃を持った担当官に対峙して毅然としている彼女に驚いているようだった。香奈子はそんな様子に気を害することもなく、むしろ当然のことだと思った。

デイパックの中を開いてみると水のペットボトルやパン、地図が入っていたが、先に視線が向かったのは掌に収まりそうな大きさの鉄の塊だった。恐る恐る引っぱり出してみる。鉄を溶かして曲げて溶接しただけのような荒っぽい作りで、引き金っぽい物がついている。何とか銃に見えなくもないが、ちゃっちい昔のエアガンか何かのように思われた。
物思いに耽っていった。1ヶ月前に故郷の長崎で行われた葬式のことが未だに頭から離れない。

「誠一ぃぃぃっ!」
お母さんが号泣している。お父さんも俯いて唇を噛んでいる。私は呆然と立っている。
兄さんが死んだってどういう事――?
止まっていたんじゃなかったの、プログラムは?
臨時で実施したってどういうこと?
何でいきなり死ななきゃいけないの?
兄さんは何も悪い事もしてないはずなのに。
何故プログラムなんてあるの?
おかしいよ。絶対におかしい。間違ってる――

彼女の兄、三谷誠一(長崎県松宮市立松宮第五中学校3年1組男子15番)はプログラムに参加させられ死んだ。1998年2月26日。共和国戦闘実験第68番プログラム、1997年度第13号。彼女の兄は特別に実施された試験的なプログラムに参加させられたのだ。卒業間近だというのに。可愛い彼女もいたのに。
(きっとあの時の兄さんも自分と同じ気分だったんだろうなぁ。「プログラムに巻き込まれたなんて嘘だろう?」って……)
(絶対に脱出する。私は殺し合いなんか乗らない!)

会場の入口から少し入って道が3方向に分岐している所の側にあった茂みに新山未来(女子8番)は潜んでいた。目と鼻の先には市民会館エリアと公園エリアがあって開けており見通しが効くだけでなく、いざという時は逃げやすい場所でもあった。
彼女がここにいる理由は単純明快。信頼できるクラスメイトを集めるためだ。それも単に集まって籠城を決め込むのではなく、脱出する為に危険を冒して動ける仲間だ。
次に来た香奈子が銃を持っていなかったことが、声をかける勇気を出させた。
「三谷さん!プログラムから脱出しない?」
と三谷が通りすぎる時に呼びかけたのがきっかけだ。突然脇から呼びかけられた香奈子の方はひどく驚いた様子で立ち止まり、振り返る。
「昨日初めて一緒のクラスになった新山さんから、声かけられるなんて思ってなかったよ」
後で彼女は驚いた理由をそう説明した。とはいえ声をかけられた彼女もまた、このゲームから脱出しようと考えていたので、すぐに意気投合した。

お互いの目的を確かめた後、自分の支給品を見せあった。香奈子がスカートのポケットから取り出した鉄の塊はFP-45リバレーター。これはいわゆる携帯用の小型拳銃で、45ACP弾を発射できるが至近距離じゃないとまず当たらない。
一方の未来の方はというと、このゲームでは「当たり」の部類に入る米帝製の防刃防弾コートだった。防弾性能は米帝の司法省の定める規格の最高クラスである4。ピストルどころかライフルの弾まで防げる上、刃物まで防げるという優れ物だ。
「迷ってる間に行っちゃってもまずいから、先に誰に声かけるか決めておかない?」
「そうだね……とりあえず、尚子ちゃんは信頼できると思う」
(尚子ちゃん――ああ、若宮尚子(女子12番)さんか)
未来とは凄く仲が良いという話を香奈子は聞いたことあった。

しばらくして、太陽が照りつけるコンクリートの上を1人の小柄な女子が歩いてきた。
「尚子ちゃん!」
茂みから顔だけ出して、未来が呼びかける。若宮尚子(女子12番)が目を見開いて未来の方を見ているのが香奈子には良く分かった。向こうも未来だという事が分かったのだろう。すぐさま、全力で駆けてきた。
「ああ、未来ちゃん。良かったぁ。待っててくれてるって信じてた……」
彼女は笑顔を2人に見せた。つられて未来や香奈子も緊張を解いて微笑を見せる。
「あなたの支給品は何?」
――支給品は2人にとって意外な物だった。
「リモコン爆弾?」
「うん。50メートル以内で、このリモコンのボタンを押したら5秒後に爆発するんだって」
アンテナのついた四角い物体とリモコンを抱えながら彼女は説明した。その話を聞いて少し思案した後、突然未来は呟いた。
「……うん、いけるかも」
「とりあえず、ショッピングセンターに行こう。説明はそっちでするから、ね?」
未来はそう言った後、先導するように自分のデイパックを背負ったところで、銃声が何度も鳴った。
「きゃぁっ!」
3人の近くに流れ弾が飛んできて木の枝が弾け、尚子が悲鳴を上げる。慌てて未来達は各自デイパックを持って公園エリアへと逃げ出す。すぐに銃声は止み、マイクのスイッチが入る気配がして緊張が高まる。
「こんにちは。担当官の羽原です」
3人は思わず顔を見合わせた。
「まだ全員出発していないが、早くも死者が出た――」

【残り24人】