Don't Look Back
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5話

第1章「憂鬱な昼下がり」

男が案内した先は会議室のような、少し大きめの部屋だった。長机とパイプ椅子、それからホワイトボードがある。さらに、先客がいた。不登校が続いているという北康太郎(男子5番)だ。昨日の始業式には珍しく来ていたので冬月直樹(男子9番)は彼を知っていた。
北の方はというと、クラスメイトが来たのに気づいても無表情だ。プログラムに巻き込まれたのも知っているはずだが、そのクラスメイトと会っても変わったそぶりすら見せなかった。逆にその様子が不気味な印象を周りに振りまいていた。

男はホワイトボードに「羽原一郎」と書いた。
「私が今回のプログラムの担当官だ。今から、ルール説明をする。私語はしないでくれ。質問は後から受け付けるからな」
言い終えると、ホワイトボードの近くのテーブルから首輪を取った。座っている生徒に掲げてみせる。
「これは軍の研究所で特別に作られた首輪だ。耐ショック、防水加工などいろんな機能が詰まっている。首輪につけられた機能の中で重要なことは、こちら側から電波を送ることにより首輪が爆破するという点だ」
何処からか息の呑む音が聞こえた。
「首輪によってゲームは強制的に進行される。政府に逆らうような事をしたり、脱出しようとしたり、後で説明する『禁止エリア』に引っかかると、容赦なく首輪を爆破するからな。もちろん簡単には外せない。外そうとしたら自動的に爆破するようになっている。悪いことは言わない。止めておけ。首輪を外したかったら、優勝者になるしか方法はない」

羽原が説明を続ける。
「会場である『大東亜戦闘訓練場』は市街戦の訓練用に設計されている。全体は4つのエリアとその他の道路などの場所に分かれていて、入口は南側だ。入口の門と外周には鉄格子が設置されて、優勝者が決定するまでの間は高圧電流が流されている。少しでも触れたら感電死するからな」
「この4つのエリアは、お前達の死亡人数に応じて『禁止エリア』となる。『禁止エリア』の発表を行ってから、3分以内に脱出しないと首輪は爆破してしまう。道路や林は禁止エリアにならないから、安心してくれ」

首輪の取り付けが終わった後、男は続けて告げた。
「君達には1人ずつデイパックが与えられる。中には水と食料、会場地図と生徒名簿や禁止エリアの条件、プログラムのルールが書かれた小冊子に筆記用具。そして、これが重要なのだろうが――殺し合いをするための武器。役に立たない物からナイフ、銃までいろいろだ。会場にもそれなりに役に立つ物があるが、それも自由に使用して構わない」

ルールは熟知していたので、羽原の説明を直樹は結構聞き流していた。しかし、彼は最後にとんでもない事を告げてのけた。
「今回のプログラムより重大なルールの変更点がある。プログラム中で10人殺害をした者は成績優秀者としてプログラムを『勝ち抜け』する事ができる。優勝者と同じ扱いで、政府から一生涯の生活保障と総統閣下の直筆署名入り表彰状が頂ける。これは2人以上出ても同じだ。
つまり、このクラスの場合は24人だから優勝者の他に最大で2人、生きてここを出ることが出来るということだ。さらに24時間にわたって死亡者がいない場合は殺害者の人数が一番多い者が優勝扱いとなる。他の者は首輪が爆発し、死亡する」
(10人殺せばプログラムから降りられる? 冗談じゃない、このゲームに乗る奴を増やすだけじゃないか!)
「嘘だろ……」
思わず直樹は苦々しげな表情と共に呟いていた。隣の三谷香奈子(女子9番)が、彼の呟きに反応して表情を伺っていることに気づいたが、絶望に軽く打ちのめされて渋い顔しかできなかった。

「――これでプログラムの説明は終わりだ。何か質問は?」
羽原が説明を終えると、即座に誰かの手が上がった。北康太郎(男子5番)だ。
「先生、優勝者か成績優秀者になれば一生涯の生活保障が貰えるって仰られてましたが、どれぐらいの額ですか?」
「保障関係は役所の仕事だから詳しくは把握してないが、年300万円前後ってところだったはずだ。一般的には食うには困らない程度の額だな」
「どうもありがとうございます。……それで十分です」
会釈すると北は軽く頷きながら席に着く。直樹はその一部始終を伺っていたが、その時になって彼の眼が妙に荒んでいることに気づいた。

「さぁプログラムを始めるぞ。デイパックを受け取ってさっき入った入口から出ていくこと。2分間隔でスタートしてもらおう」
男はここで一度区切った。最初の出発を告げるために息を吸い込み、大きな声で叫ぶ。
「男子7番、後藤大輝!」
顔が更に歪むのが、直樹は自分ではっきりと分かった。
(もし後藤がプログラムに乗ったら、俺はどうすればいいんだろうか?)
最悪の仮定がどんどん直樹を不安にしていく。当の本人は直樹の心配や、クラスメイトの視線など意に介さず、デイパックを受け取ると悠々と部屋の外に出ていった。いつものことながら表情も変えずに。
(とうとう始まったな。プログラムが……)
1名減った教室の中、直樹はひどくそれを痛感していた。

【残り24人 / ゲーム開始】