Don't Look Back
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概要

はじめに

このコーナーでは1960〜90年代にわたってハードボイルド小説の分野で活躍した作家・大薮春彦氏の作品について色々書いていきます。残念ながら1996年に大薮氏は亡くなられ、新作が出ることもありませんが、風化させるにはあまりにも惜しいと思うので、たとえ1人でも盛り上げていきたいと思っています。

大藪作品の傾向

大薮春彦の作品に共通するのは反権力性に満ちた作品が多いということです。ターゲットが権力者であることが多く、無様に書かれはすれど、良いように書かれたことは皆無です。そんなターゲットに対して、主人公は自らの願望(復讐だったり、大金入手などが多い)を叶えるため、自らの身体を極限までに鍛え上げ、冷徹な意志力をも兼ね備え、特殊技能を身につけた後、自分のみを信頼して、殺人などの犯罪をおかしてでも目的を達成する。

彼の作品はほとんどこのようなパターンで構成されています。悪く言えばワンパターンです。ですが、強烈に読んだ人を熱中させ、他の作品も読みたくなるような魅力があります。こんな魅力を持つ作家は他にはいないと思います。

ところで、作者本人がハンティングなどを好み、実銃をよく扱っているため、銃器描写で右手に出る作家はいないのでは……と思うほどのものがあります。また車の描写に関しても凄まじいものがあり、時には話を脱線させたり、かなり無理矢理な会話の展開をさせてまで薀蓄を語ったりすることも。とにかく、大薮作品の中核には、強い主人公と共に「銃」と「車」があるのは間違いないところです。

さて、大薮春彦は伝説のハードボイルド作家として知られています。しかし、実のところ彼の作品はハードボイルドとはちょっと違うところが多いのだそうで。そもそもハードボイルドというジャンル自体、日本に入ってくる際に定義が変形しているそうです。本人はインタビューの中で、「自分自身はハードボイルドだと思っていない。自分の書きたいものがハードボイルドに似ているだけ」という趣旨の発言をしています。

では彼の作品は何なのか。「大薮春彦」の作品ということで纏めてもファン的には全然OKなのですが、新しく読む人にとってはワケ分からんのであえてジャンルに当てはめると、3種に分かれます。ハードボイルド(「野獣死すべし」「蘇える金狼」など初期作品)、ピカレスク(悪漢小説。「ウィンチェスターM70」など)、そして後期作品に多い気楽な娯楽アクション(「黒豹の鎮魂歌」や西城シリーズなど)です。

読む際に一つ注意。作者が女性蔑視傾向なため全般的に作中での女性の扱いは酷いものがあります。子供や女性が読むのはオススメできません。

また、大薮作品ではかなりカタカナに拘ります。「エア・コン」「セックス・アッピール」など、現在のカタカナ表記に慣れている我々としては違和感があるかもしれませんが、気にしないように。気にしたら負けということで一つ。他にも色々笑っちゃうような描写もありますが、お約束として突っ込まないのがマナーです。本気で突っ込みだすとキリが無いし、全作品ともそんな感じなので。

大藪作品の定番

もしここまで読んで興味があるならば、是非古本屋で手に取ってみてください。基本的にこの作家の場合、古本屋を回って探すことになります。後期より前期の作品の方が面白いのが多いです。

数少ないネット上の大薮作品の書評を聞く限り、まず以下の作品が第一線です:

  • 「野獣死すべし」を初めとする伊達邦彦シリーズ(全9巻)。特に前期。
  • 野望を秘めたサラリーマンが巨大企業の中でのし上がっていく「蘇える金狼」(全2巻)
  • 製薬会社のプロパーが主人公で医薬品の売り込みを題材とした、超異色の「戦士の挽歌」(全3巻)
  • 青春の全てをレースに賭ける男の一代記、「汚れた英雄」(全4巻)

「東名高速に死す」等の西城秀夫を主人公とするハンターシリーズ(全8作)や、復讐モノの「長く熱い復讐」・「黒豹の鎮魂歌」・「傭兵たちの挽歌」なんかが続きます。最初に手を取るならこの辺りからどうぞ。